国会中継はなぜ「子供の喧嘩」になるのか? ヤジの裏に実はある交渉の駆け引き

  • 2018.5.9
  • 時事・ニュース


国会中継をテレビで観ていて、不快な気分になったことはないでしょうか?
答弁している最中にも関わらず、周囲からは品格を疑うような汚いヤジが飛び交う…まるで子供の喧嘩のようだと思う人も多いでしょう。
いや、小学校の学級会でもこんなにヤジは飛びません。そもそも大抵の人は子供の頃に、「人が話をしている時はきちんと聴くこと。」と親や先生から教わっているはずです。
ではなぜ、議員たちは毎度喧嘩腰のヤジを飛ばすのか?実は単に法案への猛反対や時間稼ぎのためにヤジを飛ばしているのではなく、一種の交渉戦術として利用していることもあるそうです。
(ただし、テレビ中継で自分をアピールするためにヤジを飛ばしている場合もありますので、全てがこれに当てはまるわけではありません。)

国会に限ったことではありませんが、交渉をする際に自分の案や要望が100%通ることはほとんどありません。
強引に押し通すやり方もあるでしょうが、それでは相手に不満を与えるだけですし、次も同じ方法で上手く行くとは限りません。
そのため、交渉が上手な営業マンは自分の利益ばかりを追求するのではなく、きちんと相手にも利益が得られるよう落とし所を考えながら交渉に挑んでいます。

 

このお互いがWin-Winとなれるようあえて妥協し、そのかわりに最善の対処案を提示する交渉術のことを『BATNA(代替案)』と言います。
簡単に言えば、「A案を諦めるかわりにB案を相手に飲ませる。」といった方法で、交渉が決裂しそうな時に最も効果を発揮します。

 

例えば営業に行った際、お互いが合意できないケースは多々あります。
しかしこのままでは交渉決裂、契約を取れずに会社に戻る羽目になります。
ですがこうなることを予想して、予めBATNAを設定していた場合はどうでしょう。
仮に相手が、「100万円では予算オーバーなので、80万円でないと契約できない。」
と言ってきたとします。
本来ならば100万円でもギリギリなのですが、「では80万円まで下げますが、その代わりに1年間は契約していただきます。」
というように交渉すれば、相手は自分の出した要望は叶っているため、とりあえず契約してみようという気になれます。

 

携帯電話の契約と同じですね。携帯会社は携帯電話を月々サポートで割引する代わりに、2年契約の条件を設定しています。これは携帯会社のBATNAと言えるでしょう。
一方で利用者は、最新のスマホは定価10万超えで購入し辛い反面、2年間契約していれば実質の負担額は半額かそれ以下になるのでこの条件を飲みます。

 

このように、BATNAは他の交渉術のように会話の駆け引きではなく、事前に準備しておくことで交渉を有利に進めるテクニックなのです。


BATNAを持っていれば、万が一交渉決裂になりそうな時でも即座に代替案を提示できるため、お互い多少の妥協はしつつも結果的にはWin-Winで成立が可能になります。

また、代替案という武器を持って交渉に挑めば、最初から相手よりも優位に立っているという心の余裕から強気で交渉を進めることができます。

 

就職活動中であれば、A社・B社で内定を取った状態でC社に面接に行けば、両者よりも高い基本給で雇ってもらえないか交渉できます。
しかし1社も内定を取れていない状態なら、焦って自分の希望を外してでも内定を取ろうと必死になります。

不用品買取の際の価格交渉であれば、A店・B店で見積もりを取った後にC店に行けば値上げがスムーズにできますし、もし無理でもA店かB店で売るという選択肢ができます。
しかし最初からC店でしか見積もりしていない状態なら、店員の言われるままに売却することになります。
このように、BATNAがあるのと無いのとでは心の余裕が全く違いますよね。
交渉の基本ですが、「相手よりも選択肢を多く持っていて、且つ最悪の場合は交渉決裂してもいい。」というぐらい強気で挑むことが、結果的には成功の確率を上げるのです。

ところで話は戻りますが、それと国会のヤジがどう関係しているのか?
実は実際の法案審議でも、与党は最初からBATNAを決めた状態で答弁しているのです。

つまり与党は、野党の動きを予期して最初から、「野党が特に猛反対する一部分だけを外して、法案そのものは通す」といったBATNAがあり、元々「外しても構わない一部分」を案に乗せています。
野党もそれをわかっていて、その一部分だけでも取り下げさせて手柄にし、互いのメンツを立て合っているわけです。

一見すると、「いい年した大人が何を騒いでいるんだか…」と呆れてしまいますが、実はあの喧嘩みたいなヤジにもちゃんと意味があったのですね。