小遣いを上げたい! アンカリング効果で奥さんを納得させる交渉術

  • 2018.6.28
  • 日常・生活

「交渉」と聞くと、組織間やプロフェッショナル間での営みのようにも思えますが、実は、夫婦や親子といった身近な繋がりの中にも、交渉術の知見を活かせる機会は溢れています。例えば、サラリーマンの旦那さんと奥さんの間で繰り広げられる、小遣いアップを巡る交渉などは、その最たるものでしょう。

 

2018年現在、働き盛りの年代のサラリーマンの平均的なお小遣いの相場は、月3~4万円程度だと言われています。「せめてもう少し小遣いの額を上げてもらえれば」とは、世の中の旦那さんの誰もが思っていること。特に、相場より低めの額しかもらっていない人であれば……。
昇給やボーナス、ローン完済などのタイミングに合わせて、思い切って奥さんに小遣いアップの交渉を仕掛けたいと考える人も多いでしょう。そうした時に役に立つのが、「アンカリング」という交渉テクニックです。

アンカリング(anchoring)とは、心理学の用語で、「錨(いかり)を下ろすこと」といった意味合いがあります。
人は、何らかの数値を考える際、当初提示された数値(錨=アンカー)が先入観となって、思考を引きずられてしまうものです。例えば、「アルゼンチンの人口は1,000万人より多いでしょうか、少ないでしょうか?」などと問われて、皆さんは何人くらいを想像するでしょうか。
1,000万人より少なそう? いやいや、流石に1,000万人よりは多いはず? 倍の2,000万人くらいは居るだろうか? と、最初に線引きとして提示された「1,000万人」を出発点として、そこからのアップ・オア・ダウンで考える方が多いのではないかと思います。
しかし、実際のアルゼンチンの人口はというと、4,385万人。1,000万人よりずっと多いのです。最初に「1,000万人」という数字をアンカー(錨)として打ち込まれたことで、それより大きく離れた値にまではなかなか思考が向かないのですね。これがアンカリングの効果です。

 

もちろん、逆に「アルゼンチンの人口は2億人より多いでしょうか、少ないでしょうか?」などと問われると、「いくらなんでも2億人も居ないだろう……せいぜい1億人くらいじゃないの?」などと、本来の4,385万人という人口よりもかなり大きな数値に思考が引っ張られてしまいます。
最初に提示される数値によって、思考が上にも下にも誘導されうるというのが、アンカリングの恐ろしいところです。

交渉術においても、このアンカリングの心理作用を利用すれば、相手の思考をアンカーの数値に誘導し、よりスムーズな合意を実現することができます。
例えば、現状の小遣いが月3万円で、これをせめて相場の月4万円にしたいと思っているとき。相手にはどう切り出すのが賢いでしょうか。よく「間を取って……」というような言い方をしますが、こうした交渉を持ちかけられたとき、人はなかなか相手の提示額そのものでは折れないものです。「せめて4万円にしてほしい」と、希望額を正直に言ってしまうと、その通り4万円にしてもらえる可能性はあまり高くないのではないでしょうか。

 

ここで、敢えて、本来の希望額より高めに、「できれば5万円くらいにしてほしい」と述べてみるのはどうでしょうか。
この5万円という数字がアンカーです。現状の3万円という金額と、提示額の5万円の間には、印象的にかなりの差があります。このように切り出すと、この5万円という数字のインパクトに思考が誘導されて、「5万円がダンナの思う適正額なら、流石に現状の3万円は低すぎたかしら」と奥さんは思ってくれるかもしれません。そうなれば、「せめて間を取って4万円くらいにはしてあげようか」という思考に至るのはごく自然なことです。最初から「4万円にしてほしい」とお願いする場合と比べて、応じる奥さんの側の納得感が違うことは、おわかり頂けるかと思います。
「4万円にして」と言われてそのまま4万円にするのでは、奥さんの側は「一方的に要求を飲まされた」という認識になって、気持ちのよい交渉とは言えなくなるでしょう。しかし、「5万円と言われたところを4万円で合意に持っていった」となれば、互いの譲り合いによって交渉が合意に至ったという認識になり、より満足した気分で交渉を終えることができるのです。

このように、交渉術のテクニックは日常の細かなやりとりにも活かせるものですが、しかし、一度これに味をしめると、相手を出し抜くことばかり考える頭になってしまうかもしれません。親しき仲での交渉テクニックの使用は、ほどほどに留めておいたほうがいいかもしれませんね。