交渉で要求を通す二つの手法 ~フット・イン・ザ・ドアとドア・イン・ザ・フェイス~

  • 2018.6.28
  • 顧客に対して使える
    日常・生活

前回の記事では「アンカリング効果」を用いた交渉テクニックを紹介しました。アンカリングとは、本来の要求よりも過大な数字を敢えて先にぶつけることで、相手の思考をその数字の方面に誘導し、本来の要求を飲んでもらう際の心理的な抵抗を減らす手法でした。

 

このように、交渉の世界では、自分の要求を最初から正直に伝えるのではなく、心理テクニックを用いてカモフラージュして伝えたほうが、求める結果が得やすくなるということが往々にしてあります。一見するとズルイ手段を使っているように思えるかもしれませんが、健全な交渉とは、お互いが損した気分にならず、前向きな気持ちで合意に到れるような交渉のことをいいます。相手の心理的な負担を減らして合意に到れるのなら、それは建設的な交渉手法といえるのです。

 

今回は、相手の心理的負担を減らして要求を受け入れてもらうためのテクニックとして、「フット・イン・ザ・ドア」と「ドア・イン・ザ・フェイス」の二つの手法をご紹介しましょう。

ビジネスの商談からプライベートな人間関係に至るまで、多くの場面でよく使われているのが、「フット・イン・ザ・ドア」という交渉テクニックです。
これは、簡単に言うと、「小さな要求から順に飲んでもらい、最後に大きな要求を通す」というテクニックです。「フット・イン・ザ・ドア」という名称からは、訪問営業のセールスマンがお客さんの玄関の扉に足を突っ込んでいる様子がイメージできますね。
まずはドアを開けてもらうという小さな要求を聞いてもらい、その次は話を聞いてもらう、そして商品を購入してもらう……と、順を追って要求の段階を上げていくわけです。

 

これは、「一度ある立場を取ってしまうと、一貫してその立場を取り続けたくなる」という人間の心理に依存するテクニックです。人は誰でも、一貫したスタンスの持ち主であると他者に見られたいものです。そのため、最初に小さなお願いを聞いてしまうと、次のお願いも断りづらくなるのです。

 

アパレルショップの店員がお客さんに服を売るまでの過程などは、このテクニックを上手く利用している例といえるでしょう。「何をお探しですか?」「お似合いのものをお持ちしますね」など、小さなところから話の切っ掛けを作ってお客さんの心理を誘導していき、商品を試着してもらうことを経て、購入を断りづらい状況を作ってしまうわけです。

「フット・イン・ザ・ドア」と対極をなすのが、「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれる交渉テクニックです。
小さな要求から順に受け入れさせていく「フット・イン・ザ・ドア」とは逆に、「ドア・イン・ザ・フェイス」は、敢えて過大な要求を先にぶつけ、「譲歩」という形で、より小さな要求を受け入れてもらうものです。アンカリング効果による心理誘導と仕組みは似ているといえるでしょう。

 

例えば、あるセールスマンが、1万円の商品を売りたがっているとします。いきなり1万円の商品だけをお客さんに提示しても、簡単に買ってもらえる可能性はあまり高くないでしょう。ここで、先に3万円の商品をお客さんに勧め、「さすがに3万円は高いわねえ」などと断られたところで、「お求めやすいところでは、こういったものもあります」などと言って、本来売りたい1万円の商品を示すのです。こうなると、お客さんは、先に高い商品を断ってしまった「引け目」があるため、譲歩案として1万円の商品を買ってくれる可能性が高くなるのです。

 

このテクニックの背景には、「返報性の原理」という心理作用が深く関わっています。人は一般に、相手に何かをしてもらった場合には、自分もお返し(返報)をしなければならないと思うものです。そして、この返報性の原理は、何か有難いことをしてもらった場合だけではなく、「譲歩」に関しても成り立つのです。
3万円の商品を引っ込めて、かわりに1万円の商品を勧めるのは、ある種の「譲歩」といえます。この譲歩を先に示すことで、お客さんに「自分も譲歩しなければ」と感じさせ、「何も買わない」という判断から「安いほうの商品なら買ってあげてもいいか……」という判断に移行させることを狙ったのが、先程の例です。

「フット・イン・ザ・ドア」と「ドア・イン・ザ・フェイス」は、真逆のテクニックといえますが、相手の心理的負担を和らげて要求を受け入れてもらうという点では共通しています。
「無理な要求を飲まされた」「損をさせられた」と相手に思われてしまっては、せっかく要求を通しても、こちらもいい気持ちがしないものです。しかし、今回紹介したようなテクニックで相手の心理を誘導すれば、互いに後味の悪さを感じることなく、交渉を合意に導くことができるのです。