トランプVS金正恩! 米朝首脳会談に見るトランプ大統領の「統合型交渉」テクニック

  • 2018.8.30
  • 時事・ニュース

交渉に強い人物というと、皆さんは誰が思い浮かぶでしょうか。
今年、世界のニュースを大きく騒がせた「交渉」といえば、なんといってもアメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩氏の首脳会談でしょう。長年にわたって反目しあっていた金正恩氏を交渉のテーブルに就かせたトランプ氏の強引な手腕には、日本のみならず世界中が驚愕したものでした。
会談の具体的な内容については多くのニュースサイトが取り上げているので割愛するとして、ここでは、交渉術の観点から、トランプ氏の作戦の何が優れていたのか振り返ってみましょう。

世界中の関心事となった米朝首脳会談。かの「プレジデント」誌(プレジデント社、2018年6月18日号)のコラムでも、金正恩氏との首脳会談で見せたトランプ氏の立ち回りは高く評価されています。それによると、トランプ氏の交渉の優れたところは、「自らの土俵へ相手を上がらせる」ことだといいます。例えば記者会見や討論の場で相手から質問が出た際、「それはいい質問だ!」などと言って相手を持ち上げ、すかさず自身にとって都合の良い話の展開へと持ち込んでしまう。言い換えれば、都合の良い方向に話を進めやすくなるような質問を誰かがするのを待っていて、すかさずその言葉尻をとらえる。「芸能人型」の喋りを得意とするトランプ氏は、そうした嗅覚がずば抜けているというのです。

 

金正恩氏との立ち回りで彼が見せたのも、その類例といえる交渉テクニックでした。以前は声明やSNS等を通じて互いを罵り合っていた二人ですが、金正恩氏がひとたび態度を軟化させると、トランプ氏はすかさず「彼は賢明で慎重な選択をした」などと褒め称えています。質問者を「良い質問だ!」と持ち上げるのと同じケースですが、これについて「プレジデント」誌は、「相手が思い通りに行動をすると間髪を入れず褒めることで、
相手の言動を衆人環視の下で固定化しようと努める」狙いであるとの解釈を加えています(前傾59頁)。
「良い質問だ!」とか「賢明で慎重な選択だ」などと褒められて嫌な人はいません。しかし、聴衆やメディアが注目している前でそれをやられると、言われた側はそうそう簡単に態度を変えられなくなるでしょう。トランプ氏はこの心理作用を巧みに利用し、相手の態度を自身にとって都合の良い方向に縛っているわけですね。

上記の例は、一見するとトランプ氏が一方的に利益を得ているかのようにも見えますが、金正恩氏にとっても、これは決して悪いことではありません。金正恩氏も、メディアを通じた欧米社会での自身の評価をシビアに気にし、「良い見られ方」のアピールに余念がない人物であるからです。言うなれば、この点においてトランプ氏と金正恩氏は似た者同士であるのかもしれません。
そんな金正恩氏にとってみれば、トランプ氏から賞賛の言葉で迎えられることは、自身のイメージアップに繋がるとして歓迎するものでこそあれ、決して嫌な事態ということはないでしょう。
勿論、金正恩氏も、「上手いことトランプ氏の誘導に乗せられてしまった」くらいのことは重々自覚の上であろうと思いますが、それが結局は自身のメリットにも繋がると考えて割り切っているのかもしれません。

当協会の記事でも度々述べていることですが、建設的な交渉とは、一方が一方を力で押さえつけるようなものではありません。そうした「分配型」の――一方が得をすれば他方が損をするような――交渉のスキーマから脱却し、互いの利益を最大化できる「統合型」の交渉を目指すことが、交渉学の目的でもあります。
トランプ氏の「自らの土俵へ相手を上がらせる」スタイルもまた、強引に相手をねじ伏せるのではなく、巧みに相手の利益を誘導して、建設的な議論の前進を図ろうとしている交渉テクニックだと考えて差し支えないでしょう。

 

トランプ氏が金正恩氏との会談で見せた交渉テクニックは、これだけではありません。次の記事では更なる統合型交渉の実践例を取り上げます。